車で移動中、信号待ちになった。
横断歩道の標識には「スクランブル式」と書いてある。
長男が突然口を開いた。
「パパー、スクランブルってあそこに書いてあるけど、あれ、てんどんまんのやつ?」
一瞬「何の話だ?」と思ったが、すぐに「あぁ、あれか」と思い当たった。
動画と標識が、長男の頭の中でつながっていたわけだ。(なんでそこにつながるんだ)
シン・テンドンマンとは何か
長男が言っているのは、YouTubeの動画の話だった。
「シン・テンドンマン」。
三男のお気に入りの動画だ。内容は、巨大化したてんどんまんが渋谷のスクランブル交差点に現れ、町を破壊し、最終的に地球を滅ぼすというものだ。公式のアンパンマンの動画ではなく、Youtuberによる創作動画。
残虐な映像はない。ただ、非常にシュールでカオスな動画だ。
なにしろ、てんどんまんは終始笑顔だ。町を壊しても、笑顔のまま。地球が滅ぼされる側の描写はほぼなく、ひたすらてんどんまんが暴れているだけ。その脱力感が、たまらなくシュールだ。
てんどんまんが町を破壊しているあいだ、「てんどんまん自慢歌」が流れている。陽気なテーマソングと破壊シーンの組み合わせが、なんとも言えない空気を作り出している。(実にシュール笑)
「3DCG-仮想現実系YouTuber」さんの動画だ。元ネタは定かではないが、「てんどんまん ソロ」の流れを汲んでいるのではないかと思う。同じチャンネルの他の動画も見ている。どれも似たようなシュールさで、見るたびになんとも言えない気持ちになる。(それが癖になる)
「てんどんまん ソロ」は2013年にYouTubeに投稿された動画で、アンパンマンのキャラクター「てんどんまん」が曇天の中、謎の穴の前でひたすら一人で踊り続けるという内容だ。2021年頃からSNSで話題になり、2026年には再生回数1000万回を突破したネットミームだ。漂う哀愁と健気さが独特の人気を生んでいる。
なぜ長男が知っているか
三男はアンパンマンの動画が好き。長男は見たくないけど、仕方なく見る感じだ。次男は、まだアンパンマンに引き寄せられるようで、見入ってしまう。
見せられているうちに「普通のアンパンマンはもう飽きた」と感じた長男が、少し変わったアンパンマン動画を探し始めたそうだ。そこで見つけたのがシン・テンドンマンだった。
それが三男にも大ヒットした。シン・テンドンマンが流れると、三男は「てんどんまん自慢歌」を動画に合わせて歌いながら、ハイテンションで踊り狂う。
てんどんまんが地球を滅ぼしているあいだ、三男は全力で歌い、踊る。
歌詞はほぼ把握していない。ただ、「てんてんどんどん♪、てんどんどん♪」のサビだけは完璧で、そこでテンションがMAXになる。
三男本人は、地球が滅んでいるかどうかにまったく関心がない。ただ踊りたいだけだ。
その時は大抵おむつと肌着だけのスタイルなので、とてもアホに見える。
そんなアホが、とてつもなく愛おしく思える瞬間でもある。
スクランブル交差点が動画に出てくる
動画の冒頭、巨大化したてんどんまんが渋谷のスクランブル交差点に降り立つ。「渋谷スクランブル交差点」という字幕が表示される。
長男は標識を見て、その冒頭シーンを思い出したのだろう。
「パパー、あれ、てんどんまんのやつ?」
思わず笑った。
長男にとって「スクランブル」という言葉の唯一の記憶が、あの動画だったわけだ。
「スクランブル交差点はね、歩行者の信号が青になると全方向から一斉に渡れる交差点のことだよ」と説明してあげた。
まさかてんどんまんの動画がきっかけで、長男に交差点の仕組みを教えることになるとは思っていなかった。
地球を滅ぼす動画で交差点の仕組みを覚えた長男と、滅亡をにこにこ見ながら踊り続ける三男。
将来、渋谷のスクランブル交差点に行ったとき、長男は「シン・テンドンマン」のことを思い出すかもしれない。三男の歌と踊りと一緒に。
(参考)シン・テンドンマン シン・テンドンマン(YouTube)

